正一嗣漢張天師府正一嗣漢張天師府

教団の教え

戒律

道教は無為自然を旨とする宗教ですが、私たちは「自然」という言葉から無秩序・無法、ともすると「好き勝手し放題」という野放図なイメージを抱きがちです。しかし、創世神話で世界が混沌から天地・陰陽・五行に分かれ、神々が日月星辰・神霊・山川を掌握したと伝えられることからも分かるように、自然には明確な秩序があり、人間を含むあらゆる生物はその中で生命活動を営んでいます。

草創期の正一道教団では、戒律の未整備と「自然」の在り方を誤解した一部の弟子らによる堕落が深刻な問題となりましたが、道教界の改革運動と仏教界からの刺激によって次第に戒律が整えられていきました。当時の正一道教団には出家と在家両方の制度があり、戒律にも出家を前提とした記述が多く見られます。

現代の正一道で用いられている戒律は出家・在家を問わず守るべき徳目を九ヶ条にまとめたもので、道教に入門する者は必ず受けるものとされています。

題目 経文 PDF
天師府弟子九戒

信仰表明

祖天師張道陵は中国最古の宗教教団「正一道(五斗米道)」を設立し、道の在り方をこの世に示した「教祖」として崇敬されています。また、天上の「太(泰)玄都省」を掌り、正一道の儀礼は祖天師の管理下で執り行われるものとされ、正一道教団の中心的役割を担っています。

『祖天師宝誥』は祖天師の教団設立の事績を讃えて封号を示す内容となっており、祖天師への信仰表明として用いられています。

題目 経文 PDF
祖天師宝誥

老子の教え

『老子道徳経』は道教経典の中でも聖経と称えられ、キリスト教の『聖書』に次いで世界各国で翻訳・紹介されています。哲学者は老子を哲学者とする観点から『老子』とのみ称しますが、道教では宗教・神の道とする観点から『道徳経』の尊称を加えて用います。

一般に流伝している「外伝」の老子道徳経とは別に、正一道教団内部で伝承されている老子道徳経は「内伝」とされ、内容に大きな違いがあります。敦煌の残本『老子想爾注』を見ると分かるように、正一道教団は創設初期から老子道徳経に一般的な哲学的解釈とは異なる修練の観点に基づいた独自の解釈を加えています。

題目 経文
老子道徳経
小林一郎『老子』平凡社

(国立国会図書館)
経符一体 天師府内伝『老子道徳経』

『太上感応篇』は道教における個人と神霊との関係を平易に説いた重要な経典とされており、民間では勧善懲悪の世俗道徳を説く目的で宋代以降に盛んに用いられました。為政者にとっても「天罰が下るから悪いことをしないようにしましょう」などという神霊による信賞必罰を説いて民衆に善行を勧める内容は都合が良く、「神道設教」として儒教道徳の補完的役割を果たし、良くも悪くも道教界の道徳観に多大な影響を及ぼしました。

題目 経文
太上感応篇
『道教聖典』世界文庫刊行会

(国立国会図書館)

教団の道法

斎醮

道教の大規模な科儀(儀礼)を斎醮といい、多数の道士が動員され、多くは数日間に渡って執り行われます。上元・中元・下元に行われる大祭も斎醮であり、この時は神々への祈願のみならず、「奏職」「授籙」「陞職」という道士の任命式を同時に行うことが通例となっています。斎醮は多様な目的を持つ小単位の祈願・祈祷と、各々に対応した文書・符と経典を組み合わせて構成されており、道士は各々に割り当てられた役割に基づいて行動するため、一個人が斎醮に関する物事の全てを理解・習熟することは極めて困難であり現実的ではありません。

ここでは教団で過去に執り行われた斎醮をご紹介いたします。

斎醮1

斎醮は天師が親しく執り行う場合が多く、道士の任命式が同時に行われることもある。

斎醮2

斎醮は複数の科儀が組み合わさり構成され、多様な符・経典・印・訣が用いられる。

斎醮3

斎醮は一人で執り行うことができない。参加する道士は各々に割り当てられた役割を果たす。

斎醮4

斎醮は通常の科儀と比べて規模が大きく、多数の道士が動員され、数日間に渡って執り行われる。

龍泉岩清水祖師重光科儀
解説 動画

正式には「台中龍泉岩万霊洞鑑神尊重光霞蔚雲蒸神威顕赫祈安植福普佑民生道場」という、台中の龍泉岩で第六十五代天師張意将により親しく執り行われた神尊への魂入れの斎醮。
剣舞で道壇を清めた後、温・康・馬・趙の四神将に加護を命じ、手に星鏡を持ち、祖天師の神符を焚き、さらに道法を行じて元始天尊の神符を焚き、元始天尊が混元一炁火神珠を持って降臨されるよう求めた。
次に印を結んで龍泉岩の各神尊の神符が入った香炉の封印を解き、管理人立ち会いのもとで正規の符であることを確認した後、清水祖師・観音大士・天上聖母の順に魂入れが行われた。
最後に百年の歴史を持つ香炉を古式に則って安置し、信仰の場と人々を守る結界を作った。

日常四符

祖天師は病人の治療のため、符を焚き灰にして水と混ぜて飲ませる「符水」を用いました。以後、正一道は「符籙派」の道教教団として、符の使用を主な活動とするようになりました。符は元々、夜空の星々から作られたものです。古代中国では星々の配置を「天文」と称し、天界の文字・宇宙からのお告げであると考え、さらに道教では「真文」と称し、道の炁の表れ(元炁)として重視しました。正一道の符に、星や星座を表す記号や意匠が多く見られるのはこのためです。

正一道の符は秘伝とされ、炁の鍛錬と様々な厳しい修行により伝承されるもので、外から見ただけではどのような意味か分かりません。ここでは日常的に用いる四種の符を「日常四符」とし、各々の意味・役割・使用法をご紹介いたします。

鎮宅符

鎮宅符

家内安全の符。邪気が家の中に入るのを防ぐ。

平安符

平安符

厄除けの符。邪気が体の中に入るのを防ぐ。

文昌符

文昌符

学問成就の符。才気を盛んにして学運を向上させる。

財神符

財神符

商売繁盛の符。正しく商いを営む者を守護して財運を盛んにする。

日常科儀

道教儀礼(科儀)は一般に家内安全・健康長寿・商売繁盛・学業成就・縁結びなどの現世利益を神々に祈るために執り行われると思われがちですが、元来は自身の罪を神々に隠さず告白して二度と繰り返さないことを誓う「懺悔」を主体とする真摯な営みでした。

祖天師張道陵は病が心身両方の問題によって引き起こされると考え、神前で病人に自らの罪を告白させた上で符水を与えて癒しました。また、三元日(上元・中元・下元)に懺悔の意を記した文書を天・地・水を掌る天官大帝・地官大帝・水官大帝の各々に上奏する「三官手書」の科儀が今日に至るまで執り行われています。道教の祈りの精神は自己への徹底した批判と反省にあり、そこには一方的に神々に「おねだり」をする我儘な姿勢が入り込む余地など無いのです。

『太上正一張府天師修真滅罪宝懺』は題目に示されている通り、正一道の懺悔の精神を体現した経典であり、道士は日常科儀として毎日勤めて神前で自己を顧み、戒律に反した言動を悔い改めるべきとされています。

道士が実際に勤める際は道教音楽に基づいた節を付けて台湾語(閩南語)で唱え、唱法の習得は師から教わるものとされています。ここでは日本の方々に分かりやすいよう、実際の録音に基づいて五線譜に起こし、日本古来の漢字の読み方である「漢音」を発音として採用してPDFに収録しました。唱法の再現に努めておりますが、そもそも道教音楽に西洋音楽の記法を用いることには一定の限界がある上、台湾語と日本語の音節の違いから無理をせざるを得ない箇所もあり、学術的検証等に耐えうるものではないことをご了承ください。

太上正一張府天師修真滅罪宝懺
章題 経文 楽譜
歩虚曲
五神咒
恭焚朝礼
天尊
真人
天師
請来
懺悔疏文 -
奉奏来献
普供養
懺頭咒曲
礼三宝
礼祖天師
讃祖天師
讃道
朝拝祖天師
称念
懺尾曲
化紙咒