
道教は中華文明によって育まれた宗教ですが、古来より日本に多大な影響を与えてきました。
神話『古事記』では、道教の宇宙観に基づいた日本の始まりが説かれています。
「それ混元既に凝りしかども、気象いまだ敦からざりしとき、名も無く為も無く、誰かその形を知らむ。然ありて乾と坤と初めて分れて、参神造化の首と作り、陰と陽とここに開けて、二霊群品の祖となりたまひき。」
日本国憲法第一条で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とされる天皇陛下の呼称は、「勾陳」という星座に属する道教の神「天皇大帝」に由来するという説が有力です。現在では神道式に置き換えられているものの、明治時代以前の即位式には道教由来の儀礼が多く見られます。
2世紀半ばの道教教団創設以前から、「道(タオ)」の教えは方仙道・黄老道として伝えられていました。司馬遷の『史記』に秦の始皇帝が不老不死の薬を求めて方士徐福を東方の蓬莱島に派遣したと記されていますが、方士とは方仙道に属する修行者です。彼は日本(三重県・和歌山県など諸説あり)に渡り、中国文明を弥生時代の日本人に伝えたといわれています。
夜空の星々を天からのメッセージ「天文」として国家や君主の吉凶を読み取る道教の占術は天文学の発展に貢献し、古代日本人の暦から死生観に至るまで幅広い影響を与えました。飛鳥時代に作られた奈良県明日香村のキトラ古墳の石室には、十二支の動物たちと東西南北を守護する道教の神々「四神」と共に、道教で重んじられている二十八の星座「二十八宿」を配した星図が描かれています。道教と日本との密接な関係を示す史料であり、星図は現存するもので世界最古であることから、2019年、国宝に指定されました。
日本人は中国文学と美術を自国の文化として吸収・発展させましたが、「書聖」王羲之・「詩仙」李白は、道教の聖職者である道士でもあったことは余り知られていません。日本の漢学は儒教的文献学に基づいており、学問と宗教とを切り離して扱い、作者の宗教的背景が考慮されないまま解釈される傾向があります。実のところ、中国文人の多くが道教と何かしらの関わりを持っており、道教への理解無くして彼らの作品を正しく理解することはできません。
道教は心身の健康と救済を重んじる立場から道教医学を生み出し、多くの医学・薬学書が経典として残されました。日本は遣隋使・遣唐使による中国との密接な交流の中でこれらの経典を導入し、江戸時代に至るまでの日本医学の基礎を作りました。西洋実学主義の推進によって一時は衰退したものの、心身の調和を重んじる医療が求められる中で再評価されつつあります。はり・きゅう・あんまも道教由来の医療技術ですが、国家資格としての地位を認められています。
道教医学を構成する「炁(気)」「太極」の概念は日本人の気に対する鋭い感覚を育て、その影響は「元気」「病気」「陽気」「陰気」などの道教医学由来の言葉を日常的に用いていることからも窺えます。生命の躍動を表す観陽法門の太極図は「左陽右陰」の様式として日本の着物の作法に表れており、生きている人は自分の方から見て左側を表・右側を内にして着ることとされています。
これらは日本に伝わった道教文化のほんの一例に過ぎませんし、大部分は日本文化として吸収されたため、現代の日本人はその影響力に気付かないまま暮らしています。『老子』が「道の道とすべきは、常の道に非ず。名の名とすべきは、常の名に非ず。」と述べるように、日本文化から「これが『道』である。『道教』である。」などと示して名付けることには困難さを伴います。
また、道教では謙虚な姿勢を良しとする向きがあります。『老子』が「上善は水の如し。水は善く万物を利して争わず。衆人の悪む所に処る。故に道に幾し。」と述べるように、人は水の徳によって謙虚にへりくだることで道に近づくとされています。道教精神の精髄ではありますが、一方で日本文化の中の道教の実態が目立ちにくくなり、認識され難くなる原因となっています。
私たち正一嗣漢張天師府は、道教最大の宗派「正一道(天師道・五斗米道)」に属する台湾の道教教団ですが日本との縁が深く、正統な道教を日本人に伝える必要があると考え、当Webサイトを開設する運びとなりました。
道教は決して「日本と関係のない異国の宗教」ではありません。道教を理解することは日本を理解することでもあります。当Webサイトを通じて少しでも日本の方々が道教を身近に感じてくだされば幸いに思います。
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